この事例の依頼主
20代 男性
ご相談者様は、20代の男性でした。ご相談時、奨学金130万円の他に250万円ほどのお借入れがあり、毎月のご収入の中からなんとか返済するも、コロナウイルス感染症の影響でご勤務先が事業所を閉鎖することになり、解雇をされるおそれがある、そうなると返済もおぼつかないということでご相談にみえられました。状況を仔細にお伺いすると、解雇自体を争う余地もある状況ではありましたが、解雇を争ったとしても解決までにある程度の期間がかかることが十分に予想されました。また、そうなるといずれにせよ支払いがおぼつかなくなること、ご相談者様ご本人としても当該勤務先に戻るつもりはないとのことだったので、解雇を争うことはせず、お借入れの整理に注力していただくことにしました。ご相談者様としては、お借入れの事実は間違いないことであり、コロナウイルス感染症の影響で解雇をされたとしても金融機関等に非があるわけではなく、返済を継続していく手続をご希望されていました。そこで、ご相談時点でのご相談者様の家計状況及び手続きを取った場合ととらなかった場合のライフプランの比較、手続きを取った場合でも、それぞれの手続きによるライフプランの違い等を比較検討し、ご相談者様の納得行くまで方針について協議しました。結果、任意整理や個人再生がご相談者様のご希望に沿う手続としてあるものの、いずれも返済を継続していく手続であり解雇直後の無職の状況では困難であること、一方、ご相談者様は積極的に就職活動をされていたことから、タイムリミットを決め、それまでに想定される返済金額プラスアルファの余剰が出る家計状況になった場合は個人再生等に方針を変更するけれども、余剰が出ずにタイムリミットを迎えた場合は自己破産を申立てることとしました。
ご依頼者様には、まず、新たに収入を得ていただくことに重きをおいていただきました。無職であったとしても自己破産を申立てることはできますし、それだけを理由として免責が認められないということもありません。しかし、自己破産を始めとする債務整理手続きの究極的な目的は債務者の方の経済的更生にあります。お借入れに対する返済をせざるを得ず、そのために生活費が圧迫されている方に対して、返済額を調整したり(任意整理)、債務を圧縮し(個人再生)又は免除したり(自己破産)して、その後、経済面で生活の立て直しができることが必要なのです。本件のご依頼者様はまだお若く、就労意欲もお持ちでいらっしゃったので、債務整理手続き後は、ご自身で収入を得て、その収入の範囲内で生活をしていただくのが経済的更生に資すると思われました。そのため、手続へご協力いただくのはもちろんですが、まずは、新たに収入を得ていただくことに重きをおいていただきました。そして、手続準備と並行しながら就職口を見つけられ、自己破産手続きの申立て前に収入の目途を立てることができました。新しい職場での新しい業務と自己破産手続きの申立ての準備とを並行して行っていただくことは時間的制約もあって大きなご負担をおかけしただろうとは思いますが、ご依頼者様にはしっかりと手続にも向き合っていただき、申立て準備もスムーズに行うことができました。その後、裁判所に自己破産手続きの申立てを行い、無事、免責許可決定を受けることができました。
奨学金は決して裕福ではない家庭・学生にとっては、お金の心配をして進学を諦めなくてよくなる、大変意義のある制度だと思います。一方、奨学金はまとまった金額になりがちで、利率や返済期間(回数)が消費者金融や銀行からの借入れに比べて負担が少ないとしても、トータルの返済金額は小さくありません。毎月の返済金額も決して小さいものではなく、どうしても負担感が大きくなります。それにもかかわらず、学生時代に借入れたという点でご両親やご家族に迷惑をかけてしまうのではないか、と、債務整理等のご相談を躊躇される方も多くいらっしゃるように思います。確かに、奨学金の保証人をお願いしている場合など、ご自身が自己破産手続きをとるとご両親やご家族に代わって返済をしてもらわなければならなくなる状況も考えられるところです。しかし、近年、機関保証(保証料を支払うことで、連帯保証人や保証人を立てることなく、奨学金を借りることができる方法)が利用されるケースが増えており、連帯保証人や保証人を立てるケースより機関保証を利用するケースのほうが多くなっているとの報道もあります。機関保証を利用している場合はご家族に連帯保証人に立ってもらうことをお願いしているわけではありませんから、ご自身が自己破産手続き等の債務整理手続きをとったとしても、ご家族に奨学金の肩代わりをお願いすることになる等の迷惑をかけることにはなりません。とはいえ、奨学金の貸与を受ける手続きをしてから返済開始までは例えば4年制大学だと4年以上も期間があり、ご自身がいずれの方法を選択したのか、失念してしまっている事も考えられます。もし、奨学金の返済に負担を感じられているのであれば、今一度奨学金の貸与状況を調べてみてはいかがでしょうか。本事例においても、当初、ご依頼者様は奨学金がネックになっていました。しかし、改めて貸与状況を確認し、機関保証を利用しており自己破産等の手続きをとったとしても、ご家族に奨学金の肩代わりをお願いするようなご迷惑をかけることにはならないことを改めて確認し、手続きをとることに決められました。このあたりは、「奨学金は自己破産ができない」、「奨学金を自己破産の対象にすると親に迷惑をかける事になる」といった誤解に基づいて判断されていることもありますので、やはり、弁護士等へのご相談をされたほうがよろしいかと思います。ご依頼者様には、ギャンブルを原因とするお借入れもありました。ギャンブルは免責不許可事由ですから、原則として免責はされず、免責される場合であっても破産管財人が調査を行うのが一般的と思われます。本事例においては、申立を適切に行いましたので、破産管財人が選任されず、同時廃止ということで手続は進みました。ご依頼者様のご負担を軽減することができたのではないかと思います。