この事例の依頼主
男性
相談前の状況
歩行者(被害者)と自動車の事故で、相続人の方からのご依頼を受けました。事故の態様から、被害者側の過失割合(※なお、車と歩行者の場合は「過失相殺率」という用語を使うのが正確ですが、わかりやすくするために以下は「過失割合」と表記します)がやや高めになることも想定されました。
解決への流れ
1 自賠責への被害者請求被害者側の過失割合が高くなることが想定されたので、まず、自賠責保険に対して請求をして、3000万円の自賠責保険金(※正確には「損害賠償額」と言います)の支払を受けました。2 裁判(訴訟提起)その後、裁判を起こして加害者に損害賠償請求をしました。過失割合が主な争点になりました。夜間の事故であったのですが、訴訟前に、事故現場に夜間に行ったところ、街灯が思った以上に明るいことに気づきました。また、事故発生場所についても加害者が相応に注意をすべき場所ではないかと思われたので、現場の写真を提出し、道路交通法を引用するなどしてその点を主張するなどしました。その結果、裁判所は、過失割合を40%とする和解勧告(つまり、損害の60%を加害者側が支払う内容)をして、加害者側も応じたため、和解が成立しました。3 人身傷害保険の支払人身傷害保険(被害者側が契約している、過失割合にかかわらず交通事故による被害をカバーする保険)があったので、そちらの利用が可能でした。そこで、被害者側の保険会社に請求をして、過失相殺された40%の分の損害について保険金の支払いを受けました。4 結果として、過失相殺をされないのと同じ金額の支払いを受けることができる形での解決ができました。
1 自賠責保険の利用について自動車保険は強制保険の自賠責保険と、任意保険の2階建ての仕組みになっております。自賠責保険については、保険金額は低いのですが、被害者保護という観点から、重過失減額の扱いがあります。これは、たとえば、被害者側の過失割合が7割未満であれば保険金額減額がされない(つまり自賠責からの支払については過失相殺されないのと同じ効果)になるなど被害者に有利な扱いがされるのです。被害者の過失割合が高くなることが予想される場合、まずは、自賠責保険から支払を受けることが肝要です。死亡事案の自賠責の保険金額は、3000万円ですが、本件では自賠責において、過失割合が7割未満であると認定され、3000万円全額の支払いを受けることができました。2 過失割合過失割合については、別冊判例タイムズ38号という東京地方裁判所の研究会が出している基準があり、それに基づいて判断されることが多いです。しかし、「基準」といっても、すべての事故の類型について基準が定められているわけではありません。また、基準があったとしても厳密にはその事故にあてはまらないという場合もあります。さらには、基準があてはまるとしても、基本的な割合から修正される場合もあります。 したがって、基準を一応の目安にしつつも、思考停止をしないで、個別に検討する必要があるように思います。本件はそのような事例でした。3 人身傷害保険人身傷害保険とは、被害者側が契約している、過失割合にかかわらず交通事故による被害をカバーする保険のことを言い、任意保険の特約としてついているが多いです(最近では付帯率が90%を超えている)。補償の内容は、各保険会社、契約の内容によってことなり、契約している車に搭乗事故に限るのが基本ですが、本件のように歩行中の事故について拡大して補償する特約がされている場合もあります。人身傷害保険の保険金支払額については、裁判基準よりは安い人身傷害保険の基準で支払われるのが基本です。しかし、裁判をした場合には、裁判基準での金額を支払うという契約(約款)が最近増えています(「読替規定」と言います)。本件はそのような約款がありましたので、それを利用して裁判基準での賠償額を基本に、過失相殺された部分について支払をうけることができました。4 このように、加害者側の保険(自賠責保険、任意保険)、被害者側の保険(人身傷害保険)双方を駆使して解決した事例でした。