この事例の依頼主
20代 女性
被害者である若い女性が、信号機のある交差点で、横断歩道を歩行していたところ、普通乗用自動車に衝突されて、跳ね飛ばされました。頭を強く打って、外傷性脳損傷などの傷害を負い、病院での治療後、高次脳機能障害の後遺障害が残りました。加害者は、当初自分は青信号を見て走行し、歩行者が赤信号を無視して、横断歩道を歩行してきたと主張していました。その言い分が通ったことからか、警察の捜査段階の捜査報告書を見る限りは不処罰の方向でした。ただし、検察庁の段階では、加害者が信号を見ていなかったことを認めたことから、加害者は罰金刑とされていました。被害者には、東京の交通事故専門の有名な弁護士が付いていました。その弁護士からは、被害者の過失70%加害者の過失30%、賠償金3500万円で示談するとの方針が示されていました。しかし、その方針は認められないとして、被害者とその家族は、東京の弁護士を解任して、当職に相談したとのことでした。被害者は、自分はいつも信号を守るので、横断歩道を赤信号では渡らないと強く主張しました。当職は、依頼人のお宅に何度かお伺いし、本人やご家族から詳しくこれまでの経緯を聞き、依頼を受けました。
依頼人から刑事記録などを受け取り、詳しく記録を検討したあと、事故現場に行きました。車の行き来が多く、とても赤信号を無視して、渡れるような場所ではありませんでした。その後、自賠責の被害者請求をし、自賠責等級2級の認定がされるとともに、自賠責金が入金されました。そして、地方裁判所に訴訟を提起しました。被害者は青信号で横断歩道を歩行したから、被害者過失は0%であり、加害者に100パーセントの過失があり、加害者は被害者が赤信号を無視して横断したとして、被害者に70%の過失があり、加害者30%の過失だと主張しました。証拠としては、実況見分調書・加害者供述調書・第三者供述調書・信号サイクル表などがあり、原告被告双方から主張が繰り返され、激しい議論になりました。最初は、単独裁判官の審理であったのですが、途中で重要案件とのことで、合議で3人の裁判官で審理することになりました。 裁判官3人・被告代理人・原告代理人等で交通事故現場にも行きました。当職は交通事故現場で裁判官と会話を交わしたのですが、3人の裁判官の意見が必ずしも一致していないような印象を受けました。その後、被告と原告の本人尋問も行われました。最後に裁判所から和解勧告がなされましたが、原告は和解勧告を断り、判決を求めました。判決書は41ページにもなるものでした。被害者の過失25%、加害者の過失75%との判決がなされ、当初の過失割合は逆転しました。被害者は、自分には過失はなかったとの主張でしたが、控訴して再逆転する可能性もあることから、この判決で良しとする方向で決着することにしました。被告からも控訴はなく、判決が確定しました。被害者は自賠責金と判決で認められた金額で約9600万円を獲得することになり、さらに、労災保険金も加わりますので、総額約1億2000万円を得ることとなりました。
刑事記録を読んで、現場を何度も自動車で走行しました。歩行者がこの道路を赤信号無視して歩行することはあり得ないと思いました。この案件で、現場に何度も行って見ることの重要性を強く感じました。