この事例の依頼主
70代 男性
相談前の状況
依頼者様は、マンション1棟の所有者でした。依頼者様は、このマンションの1室を相手方(30代・男性)に賃貸しておられました。この賃貸借契約においては、賃貸借契約が終了して部屋の明渡しが完了した後に、50万円の敷金のうち40万円が控除(敷引き)されることになっていました。依頼者様は自己使用の必要が生じたため、相手方に対して、「敷金全額を返すから賃貸借を終了させてもらえないか」と一度打診いたしましたが、相手方が提示した条件があまりにも過大であったため、すぐにこれを撤回いたしました。相手方も、この撤回に納得いたしました。ところが、相手方は、その後、7か月にわたって賃料の支払を行いませんでした。そこで、依頼者様は、相手方に対して、ご自身で内容証明郵便を作成し、賃料の支払を求めましたが、相手方から、「家主の要求により転居せざるを得なくなった」として、敷金全額の返還を求められました。
解決への流れ
解除の意思表示は撤回することができない旨を規定した民法540条2項との関係で、「敷金全額を返すから賃貸借を終了させてもらえないか」いう依頼者様からの打診が拘束力を持つのかどうかが問題となりました。当職において、依頼者様から委任を受け、まずは示談交渉ということで相手方と話をしましたが、相手方は交渉を放棄して、依頼者様に対して敷金全額の返還を求める裁判(訴訟)を起こしました。最終的に、この裁判(訴訟)において、裁判官から、「敷金全額を返すから賃貸借を終了させてもらえないか」いう依頼者様からの打診は拘束力を持たないという、当方の主張を全面的に認める判断を得ました。
民法の規定を形式的に当てはめると、依頼者様にとって不利益な結果となると思われる事案でした。相手方から裁判(訴訟)を起こされ、敷金全額の返還を求められましたが、当職にて民法の規定の解釈論を展開し、今回の具体的事実関係を丁寧に主張した結果、当方の主張を全面的に認める判断を得ることができました。依頼者様からは、「軽率に敷金全額を返すと言ってしまい、そのとおり返さないといけなくなってしまうかと思っていましたが、助かりました。ありがとうございました。」との感謝のお言葉をいただきました。