学校でのいじめや暴力問題に対して、被害者家族がSNSで告発するケースが増えています。広陵高校野球部問題でも保護者とみられる人物による詳細な告発投稿が注目を集めました。しかし、たとえ事実であっても法的リスクは存在します。学校や教育委員会への相談で解決しない場合、被害者はどのような手段を取るべきなのか。弁護士の視点から適切な対応策を分析します。
●SNS告発には「めちゃくちゃリスク」がある
結論から言えば、SNS告発にはかなりのリスクがあります。事実であっても、被害者であっても、その事実を公表することで名誉毀損や侮辱などの責任を負わされる可能性があります。これは刑事・民事の両面でのリスクです。
今回の親御さんも、最初は適切な手続きを踏んだものの、結果に納得がいかずSNS告発を選んだのではないかと思います。学校や校長会に相談し、警察への被害相談もおそらくしているでしょうが、それでもSNSで書くとリスクがあるのです。
●弁護士として「決しておすすめできない」
弁護士としては、SNS告発は決しておすすめできる方法ではありません。例えば民事訴訟を起こしてみる、弁護士を通して法的措置を取る、記者会見を開くなどの方法があります。
そうした方が、不法行為責任で民事上の損害賠償請求をされるリスクは下がると思います。 いきなりSNSに書くのは危険なので、まずは民事訴訟を検討する、学校に内容証明を送る、弁護士を通して学校と交渉するなどから始めた方が良いでしょう。
内容証明は自分で作成することもできます。「弁護士に相談しており、対応してくれないようであれば法的手段を取らざるを得ません」という形で手紙を送ってみる、あるいは弁護士に相談しながら自分で交渉するという方法もあります。そうすれば費用も抑えられるでしょう。
●「安全な投稿方法」は存在しない
学校名を出さないという方法も考えられますが、それでは読者には何のことか分からなくなってしまいます。今回は学校の公式発表のタイミングで投稿したことで注目されましたが、そうでなければ見てもらえない可能性もあります。結局、高校の社会的信用を下げるような事実を指摘している以上、刑事・民事上の名誉毀損が問題になり得ます。
●「公益目的」の判断は微妙なライン
名誉毀損でも責任を負わない場合として、公益目的であり、真実であることの証明がある場合には違法性が阻却されます。しかし、今回は個人の被害者の事案なので、その被害の真実を公表することが公益目的になるかは微妙です。だからこそ、報道機関を通すなど、より安全な方法を取った方が良いでしょう。
法律家の考えと一般の人の考えが名誉毀損についてずれることがありますが、拡散した人も名誉毀損で不法行為責任を負う可能性があります。最近の裁判の流れでは、拡散した人も告発した人も責任を負うとされています。両者は共同不法行為として連帯責任になります。
●事実でも責任を負う現実への批判
事実であってもリスクを負うというのは、確かに批判があると思います。本来であれば、被害者がリスクを負わないで済むような対応を学校や校長会がすべきだったということになります。
学校の名前を守るためかもしれませんが、きちんと調査していないのではという疑問が湧いてくることが問題です。第三者委員会などを通じて中立的に調査する必要があります。
●炎上後の「完全終息」は困難
炎上した後の終息は難しいです。基本的には時間が経つのを待つしかありません。投稿を削除したり、訂正や謝罪の追加情報を出したりすることはできますが、すでにスクリーンショットが取られていれば完全に消すことはできません。何もしないよりはそうした対応をした方が良いですが、収まる保証はありません。
ここまで問題が大きくなったので、これまで警察が取り合ってくれなかった場合でも、調査が進む可能性はあります。ただ、親御さんがリスクを負わないで済むような早期対処が本来は必要だったということです。
●被害者側が準備すべき証拠
告発する側としては、客観的な証拠として残せるものをどれだけ残しているかが重要です。LINEの記録や当時書いた日記なども証拠になり得ます。精神的ダメージを受けている時に証拠を集めるのは大変ですが、少しでも残せるものを探して残すことが必要です。
いじめられた側がそこまでしなければならないのは本当に大変ですが、相手は「やっていない」と言うことが多いので、自分を守るためにも証拠を集めることが重要です。今からでも残せるものがないか探すことが必要になります。
●根本的解決は学校側の早期対応
今回の件は、保護者もリスクを覚悟の上で相当な思いをもって投稿したものと思われます。学校側の対応が早ければ、ここまで発展しなかったということに尽きます。
学校や高野連など関係機関の早期適切な対応が重要でした。それがなかったことで被害者側が大きなリスクを負うことになってしまったことは非常に残念です。
弁護士ドットコムニュース記者・小倉匡洋(弁護士)